
ピロリ菌と内視鏡の洗浄・清潔保持について
ピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ)については、これまで述べた通りです。
十二指腸潰瘍・胃潰瘍のみならず、非常に長い期間をおいて胃癌の原因になる(話題のアスベストに似てますね)、胃の中に生息する細菌です。
私が研修医の頃は、光源に内視鏡=胃カメラをつけたまま、じゃーっと水洗いする作業を、消化器科の部長の命令でやらされてました。鉗子口の掃除なんか全くありません。現在から見ると全く話にならない事です。ヘリコバクター・ピロリが胃に生息する事が証明されたのは1983年ですが、ヒトを含む動物の胃に微生物が存在する事は約100年前から部分的なデータが議論されてきました。その後WHOの勧告や、実際に内視鏡を洗わずに使い回すとヘリコバクター・ピロリが感染するという実験結果(実験せずとも当たり前の話なのに何の為の実験なのか、全国の石頭を説得する為に奇特な研究者が悲壮な思いで人柱になったのか、私には解らないのですが)等が出てきてようやく全国的にもきちんとした洗浄なしでの使い回しはだめだという意識が広がって、一流を自負する病院では使い回しはなくなったようです。過去における内視鏡による交叉感染で年月を経て発癌して亡くなった人もいるはずですが、調査もされず、責任もうやむやな状況です。
肝炎ウイルスの交叉感染はもちろん、ピロリ菌の交叉感染も、決してあってはなりません。また、ピロリ菌以外の未知の病原体の存在を示唆する臨床データもあり、本来内視鏡は、水で洗い流して使い回すようなものでは全くありません。
もっとも内視鏡(胃カメラ、大腸カメラ)の特性として、手術用具並みの滅菌を保ったまま手技を行う事は現状では実務上とても無理というのも確かです。
内視鏡はどの程度に清潔にすればいいのか。私としては少なくとも
「食器並み」
に清潔に保つべきと考えています。
ただ内視鏡の構造が複雑な為、食器みたいにスポンジで洗うだけでは不十分で、鉗子口という穴をブラッシングした上で消毒剤を使う必要があります。主流で使われていた「グルタルアルデヒド」は刺激臭、毒性、発癌性など患者さんにとっても喜ばしくない性質があります。そのため最近になって各病院ではグルタルアルデヒドの代替薬に続々と替わっていっていますが、各メーカーがタコツボ式に自社の洗浄器に自社開発の消毒薬を使う状況になっています。実は現状では「当たり前」の消毒方法というものがありません。
検討の末、自院では「強酸性水」を使った内視鏡洗浄器を導入しました。これは食塩水に電荷をかけたときに出来るもので、次亜塩素酸を含み、各種細菌・ウイルスを瞬時に不活化します。鉗子口も強制的に強アルカリ・強酸性水を送水して完璧に洗浄・消毒します。欠点としては、ちゃんとスペック通りの強酸性水が出来ているかどうか、自己管理しなければならない点です。当院ではpHチェックなどを行ってこの点をクリアしています。
内視鏡の内部が乾燥して蛋白がこびりついてしまった後ではどんな強力な消毒薬を使っても無駄です(凝固した蛋白の内部にまでは消毒薬が浸透しない為)。その為当院では検査が終わって患者さんにリクライニングベッドで休んでいただいた後、直ぐに特殊酵素洗浄剤で内視鏡の外回りの掃除と鉗子口のブラッシングを行い、蛋白質を分解させたあと、洗浄器にかけます。洗浄器は強酸性水と同時に作られた強アルカリ水で蛋白の汚れを究極まで落とした後、強酸性水を鉗子口内に流して消毒します。洗浄後、壁などに当たるのも交叉感染の原因になり得るので、洗浄後の胃カメラや大腸カメラを運ぶときも細心の注意を払います。
このように内視鏡の取り扱いは1回1回、人の手で行うものなので、一流病院なら大丈夫という事にはならないと思われます。マニュアルの通りに洗浄しても細部まで管理が出来てなければ意味がないのです。内視鏡が清潔に管理されているかどうかというのは多くのスタッフを抱える大病院では把握が困難で、徹底させるのも困難と思われます。
なお生検鉗子など直接体液にふれるものは当院では高圧滅菌で手術室並みの清潔度としています。
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